突然変異と適者適存の56億7000万代

 宇宙から雨や雪以外に降下する物質を(*くわい)とよびました。しかし甘露(かんろ)麵麭(*パン)のたぐいも又*(くわい)範疇(はんちゅう)に入れておりました。これは明らかに含水炭水化物の高分子有機酸類でありまして、宇宙空間に稀に塊を成して浮遊していることが判明しました。あの彗星の尾の大部分がこの系統の物質と云はれております。
 最近では、石油も或る時代に、地球の引力圏に吸収された彗星群から降下した物質が地熱によって合成された可能性があると説かれてきました。
 隕石が落下した時に黒焦げの澱粉蛋白物質が散乱した記録は、寛文十一(一六七一)年米府年表に曰く、
  實を拾ひて蒔置き生ずるを見れば皆木の由(中略:地上には存在しない水晶((6価か8価以上))が享保十一年に降ったことが『宗茂公御年譜』より紹介されている。

 地上の生物の進化は、かくのごとき特殊な宇宙放射能によって突然変異と適者適存を()十六億七千万代の年月を経過して現在に至りました。
 日本人の祖先はこの宇宙の神秘を造化の神々の所作と信じてきたのであります。

(『儺の國の星』p.15 )

*(くわい)の読みは「カイ」。(筆者は旧仮名遣いを用いている。)
*機種依存文字 〝麺麭〟に同じ。
*五十六億七千万代=筆者は地球の歴史を56億7000万年としている。(地球誕生は約46億年前というのが定説。)

〝含水炭水化物の高分子有機酸類系統の物質〟が宇宙空間に浮遊しており、彗星の尾の大部分がこの物質だという。

だとすれば彗星は、地上にこれらの物質をもたらす存在といえる。 

上の引用文中『米府年表』寛文十一年の記事は、隕石が落下した時に黒焦げの澱粉蛋白物質が散乱した事や、実を拾って蒔いたら木が生えた事をあげている。

〝實を拾ひて(実を拾って)蒔置き〟というのはおそらく隕石が落ちたあたりの実を植えたということだろう。
隕石が植物に与える影響を、当時の人が期待していたことの表れではないだろうか。



彗星の尾から放たれた物質は軌道上に塵の帯となって漂っており(ダストトレイル)、この中を地球が通過した時大気圏に突入して光るのが流星である。大気圏で消滅せず地上に落下したものが隕石だ。

彗星は流星&隕石を生む母天体なのだ。

彗星と流星の関係
ウェザーニュースより引用

地球と彗星の軌道は最大2ヶ所で交わっており、地上では毎年流星群が見られることになる。
しかも周期彗星は一つではなく、非周期彗星も太陽系外天体もある。

また、彗星接近直後に地球がダストトレイルを通過すれば活発な流星群が見られる。

この彗星と流星と隕石の関係に昔の人が気づかない筈がなく、目に見えない宇宙線も含め、宇宙からの飛来物が地上の生物に作用して来たことを長い歴史の中で経験として蓄えてきたのではないかと思う。

もちろん突然変異と適者適存は、ほかにも様々な要因がある。

それらを含めて〝突然変異と適者適存の56億7000万代〟と言うことではないかと思った。

56億7000万というと弥勒菩薩の到来をイメージさせる数字だが、いろいろな含みを持たせた作者流の表現ではないだろうか。