籾種の変異は里よりも山

昔の人は新しい草木の品種について、宇宙空間の自然放射能による突然変異を期待してきたとのことだった。(前記事より)

『那珂川の地名考 前編』にも同じ事が書かれていたので紹介する。

 古人は、籾種の変異が里よりも山、麓よりも(いただき)に多く集中することを数百年乃至数千年の祖先伝来の口碑によって心得ていた。これは()宙線の降下量が上空ほど濃密である事実によるのであるが、更に、もし火口湖が山頂にあれば、これが地下からの放射性物質の湧出も加わり、珍品の出現が期待できることになる。この峯を称して、苗穂山、苗場山、稲葉山、稲苞(いなつと)山、或いは稲穂山と呼んだ。(中略)
 ()ヶ尾にも昔沼があって、ここで那珂川の種籾を仕立てていた時代があったらしい。地質は接触鉱床(せっしょくこうしょう)巨晶花崗岩(きょしょうかこうがん)で、国土地理院の地質図にはURAN(ウラン)鉱脈ありと記載されている。昔は雲母(きらら)の露頭があった。

*宇宙線=宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線。リンク参照
*苗ヶ尾=福岡県那珂川市にある地名

(『那珂川の地名考 前編』p.67~p.68)

宇宙線の降下量は高度が高いほど多い。

宇宙線の降下
宇宙線の降下模式図
EXPACSのサイトより引用
https://phits.jaea.go.jp/expacs/jpn.html

さらに山頂に火口湖があれば、地下からの放射性物質も加味して珍品の出現が期待できるとのこと。
そういう場所で種籾を育成していたのが、苗穂山、苗場山、稲葉山、稲苞山、稲穂山などの地名になったのだそうだ。

鈴木牧之(1770~1835)の『北越雪譜』には確かに苗場山に天然の苗田があると書かれている。

苗場山は越後第一の高山なり、(魚沼郡にあり)登り二里といふ。絶頂に天然の苗田あり、依て昔より山の名に呼なり。峻岳の巓に苗田ある事甚奇なり。

*太字はnakagawa

青空文庫『北越雪譜』二編 巻之四)

地名の背景にこういうことがあったとしたら興味深い。

苗場山
苗場山
https://www.pref.niigata.lg.jp/site/minamiuonuma-miryoku/1356770942610.html より

苗場山には池塘が点在し、それが苗田に見えたことから苗場山の地名となったそうだ。

古くから『稲作の神様』として人々に親しまれてきた信仰の山でもあるとのこと。

案外、ここで新しい品種が発見されたことがあったのかもしれない。

これらの話は、わずかな変化も見逃さず自然を観察し察知していた昔の人の知恵として読むことが出来るのではないかと思う。

長いスパンで自然界と向き合ってこその感覚だったのではないかと思った。


さて、話は変わって。

宇宙線は肉眼では捉えられないが、目に見えて宇宙からやってくる物質もある。

隕石だ。

次は隕石とその母天体としての彗星の話を紹介したい。