彗星は天浮橋の物語

 暗黒の宇宙の彼方から白一条の彗星が大地に近づく。祖先はその白い光が地上の生命の源であったと信じてきた。天孫降臨の天浮橋(あめのうきはし)の物語はまさにその描写に外ならなかった。

(『儺の國の星拾遺』 p.50

 

ニニギノミコトが高千穂に天降った時、天上と地上の間にかかっていた天浮橋は彗星の尾だという。

音川安親 – 国会図書館, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=74065873による

ニニギノミコトは農業の神として信仰されており、〝ニニギ〟とは「ニギヤカ,ニギワウの〈ニギ〉を重ねた語で,稲穂が豊かに実ることを予祝してつけた名称。稲穂の豊饒(ほうじょう)を示す穀霊神」だそうだ。
(コトバンク『世界大百科事典』)

彗星(天浮橋)と豊穣(ニニギノミコト)の組み合わせは、これまでの記事で紹介した内容とリンクする。(過去記事「生命の起源は宇宙にありと言う概念」・「籾種の変異は里よりも山」・「突然変異と適者適存の56億7000万代」に記述。)

宇宙からの飛来物質が生物に与える影響を期待し、利用してきた人たちには、あの神話はそう読める話になっているのかもしれない。

彗星がニニギノミコトにつながるとは思わなかった。


*補足*
天孫降臨の箇所は『儺の國の星』p.81でも引用されている。
そちらでは〝天の石位(いわくら)〟の例となっており、彗星は登場しない。
解釈の違いというか、バリエーションがあるのでが読む方は注意が必要だ。







さて話は変わるが、天浮橋が登場するのは天孫降臨の場面だけではない。

イザナギノミコトとイザナミノミコトも天浮橋に立ち下界の様子を見ていた。

ここからは余談になるが、『儺の國の星』に北斗七星をイザナギイザナミとする話がある。

なぜ北斗七星がイザナギ・イザナミになるのか不思議だが、天浮橋が彗星の尾だとすると説明がつくのだ。

次図はAD684年のハレー彗星である。

テンチジアマチジ御嶽から見た684年のハレー彗星

シミュレーションでは地平線からスックと立った北斗七星に彗星の尾がかかる様子がわかる。

北斗七星が彗星の尾に立っていると見て、彗星の尾(天浮橋)に立ったイザナギ・イザナミに見立てたのではないか。

そう思えるのだが、他に何かあるだろうか。

Originally uploaded on sv:wiki 10 April 2005 kl.18.50 by Lamré, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=626913による

ちなみに太陽系の一員であるハレー彗星はしばしば北斗七星のそばに見えたようである。

天の浮橋が特定の彗星とは限らないが、ハレー彗星は明るくなることが多く、周期も約76年と短い(人の一生のうちで一度は見られる間隔)ので神話の神に見立てられたのではないかと思った。

次図はAD218年のハレー彗星である。

地平線に沈みゆくハレー彗星は確かに天と地の間にまっすぐ立っている。

これが天浮橋だと言うならそうかもしれないと自分には思えるのだ。



追記
拍手やメッセージありがとうございます。嬉しいです。



追記
『儺の國の星』p.16にも同様の文がある。