「翼」は宇宙の彼方から飛来する彗星の門であった

タイトルにある「翼」とは二十八宿の一つ翼宿のことだ。

西洋式星座「コップ座」のAlkesは、中国式二十八宿では「翼」宿の星となる。

しばらく翼宿に関する話が続く。

古代中国において、この「翼」宿に彗星が現れる事がしばしばあったようだ。

中国の史書『竹書紀年』を引いて、「景星に出づ」とは〝彗星が翼宿に現れた〟の意味だとしている。

翼は宇宙の彼方から飛来する彗星の門であった。
竹書紀年(中略)帝堯陶唐氏七十(前二二七九)年に

 景星に出づ。草莢階(さうらいとも)()()ゆ。月の朔に始めて一莢を生ず。月の半に十五莢を生ず。十六日以後、日に一莢を落とす。乃ち晦に()()く。月の小なれば、(すなは)ち一(らい)もみぢして而して落す。名を蓂莢(めいらい)と曰ふ。一に暦莢(れきらい)とも曰ふ。

彗星が近日点を通過する前夜の描写である。

(『儺の國の星拾遺』p.50~p.51 改行・太字はnakagawa)

(私注:蓂莢= 中国古代の伝説的な聖王堯の時代に生じたという瑞草。毎月一日から一五日までは毎日一葉ずつ生じ、一六日以後は一葉ずつ落ちるという草で、これによって暦を知ったという。蓂莢草。)

『竹書紀年』からは周の成王十八(前一〇九八)年の記事も引用されている。鳳凰が彗星のことだそうだ。

竹書紀年 周成王十八(前一〇九八)年に、
 鳳凰(*あらは)る。事の河に有るを()る。
 武王没して成王(わか)し。周公旦政を()ること七年。禮を(ととの)へ樂を作る。神鳥鳳凰(あらは)る。蓂莢(べいらい)()ふ。(すなは)ち成王と(とも)に河洛に璧の沈めるを観る、禮畢(をは)りて王退く。

(『儺の國の星拾遺』p.50 *るび・改行・太字はnakagawa)

彗星と蓂莢がセットになっていることが重要らしい。

私見だが、彗星と蓂莢を組み合わせることで暦のズレを修正したのではないかと考えた。

1太陽年が365.25日、1朔望月が約29.53085日である以上、どうしてもズレが生じてくる。
どこかで調整しなければならない。

その工夫が彗星であり蓂莢だったのではないだろうか。

都合のいいことに、暦の調整にぴったりの周期を持つ彗星も太陽系にはある。

次回はその話をしたいと思う。



2021/06/18追記

『儺の國の星拾遺』緒言に、『竹書紀年』から同じ帝堯七十年の〝景星翼に出づ〟が引用されている。
しかし底本が違うのか本文に異同がある。
また、景星は当時の北極星りゅう座のツバーンを指すとしている。
同じ単語が一方ではツバーンで一方では彗星というのはあまりに違いすぎるが、本記事はコップ座アルケスと二十八宿「翼」の話題なので彗星とした。