2021年6月12日『儺の國の星拾遺』,Alkes,彗星,

タイトルにある「翼」とは二十八宿の一つ翼宿のことだ。

西洋式星座「コップ座」のAlkesは、中国式二十八宿では「翼」宿の星となる。

しばらく翼宿に関する話が続く。

古代中国において、この「翼」宿に彗星が現れる事がしばしばあったようだ。

中国の史書『竹書紀年』を引いて、「景星に出づ」とは〝彗星が翼宿に現れた〟の意味だとしている。

翼は宇宙の彼方から飛来する彗星の門であった。
竹書紀年(中略)帝堯陶唐氏七十(前二二七九)年に

 景星に出づ。草莢階(さうらいとも)()()ゆ。月の朔に始めて一莢を生ず。月の半に十五莢を生ず。十六日以後、日に一莢を落とす。乃ち晦に()()く。月の小なれば、(すなは)ち一(らい)もみぢして而して落す。名を蓂莢(めいらい)と曰ふ。一に暦莢(れきらい)とも曰ふ。

彗星が近日点を通過する前夜の描写である。

(『儺の國の星拾遺』p.50~p.51 改行・太字はnakagawa)

(私注:蓂莢= 中国古代の伝説的な聖王堯の時代に生じたという瑞草。毎月一日から一五日までは毎日一葉ずつ生じ、一六日以後は一葉ずつ落ちるという草で、これによって暦を知ったという。蓂莢草。)

『竹書紀年』からは周の成王十八(前一〇九八)年の記事も引用されている。鳳凰が彗星のことだそうだ。

竹書紀年 周成王十八(前一〇九八)年に、
 鳳凰(*あらは)る。事の河に有るを()る。
 武王没して成王(わか)し。周公旦政を()ること七年。禮を(ととの)へ樂を作る。神鳥鳳凰(あらは)る。蓂莢(べいらい)()ふ。(すなは)ち成王と(とも)に河洛に璧の沈めるを観る、禮畢(をは)りて王退く。

(『儺の國の星拾遺』p.50 *るび・改行・太字はnakagawa)

彗星と蓂莢がセットになっていることが重要らしい。

私見だが、彗星と蓂莢を組み合わせることで暦のズレを修正したのではないかと考えた。

1太陽年が365.25日、1朔望月が約29.53085日である以上、どうしてもズレが生じてくる。
どこかで調整しなければならない。

その工夫が彗星であり蓂莢だったのではないだろうか。

都合のいいことに、暦の調整にぴったりの周期を持つ彗星も太陽系にはある。

次回はその話をしたいと思う。



2021/06/18追記

『儺の國の星拾遺』緒言に、『竹書紀年』から同じ帝堯七十年の〝景星翼に出づ〟が引用されている。
しかし底本が違うのか本文に異同がある。
また、景星は当時の北極星りゅう座のツバーンを指すとしている。
同じ単語が一方ではツバーンで一方では彗星というのはあまりに違いすぎるが、本記事はコップ座アルケスと二十八宿「翼」の話題なので彗星とした。

2021年6月9日『儺の國の星拾遺』,Alkes,二十八宿

コップ座Alkesは、二十八宿では「翼」を構成する星となる。

春の星座と二十八宿はこんな風に重なり合う。

コップ座と翼宿の重なりを拡大。

「翼」の名の通り、鳥が翼を広げているようにも見える。
これは(こふのとり) が羽を広げた形だそうだ。

大陸の星宿名は翼である。この星が南の空に見える頃は晩春で、鶴や鴨が翼を広げて霞の中を北に飛びさる頃である。
(中略)
翼とは(こふのとり)が羽を広げた形であるが、漢方の言葉では、女人が腰をひらき子を産む姿の意に流用されていた。

(『儺の國の星拾遺』p.49)

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余談になるが、翼宿の和名を「襷星(たすきぼし)」と言う。
Alkesの別名「田付星(たつけぼし)」と発音が似ている。

星の和名を収集された野尻抱影氏によると、「たすきぼし」は「(たす)く」から来ているということだが、案外「たつけぼし」が先にあったのかもしれないと思う。

というのも、二十八宿の和名は古い辞書には出て来ず、よく引用されるのが江戸時代の辞書『和爾雅』だからだ。
これは筑前福岡藩の学者貝原篤信(益軒)・好古親子によるもので、執筆の契機についてこんな話があるのだ。(拡大推奨)

これによると、太宰府の古暦の写本が保存されていた旧家に滞在した折、主人から「何か國中歴訪の折には星の話も誌さるべき」と進言されたことに〝いたく〟心を動かされたことが契機とある。
しかも〝和漢の星名索引〟なる『続石位資正』の執筆を志したと書かれている。

貝原篤信(益軒)のその志の源になったのは、太宰府の古暦の写本ではなかったか。
それは那珂川の庄屋にも保管されていたもので、『儺の國の星』『儺の國の星拾遺』の元となっている。

よって順序からすると「田付星」が先で「襷星」が後だと思うが、他にもいろいろな資料を見たはずなので音が似ているのは偶然だろう。

次ページは貝原篤信に影響を与えた筑前山口村平等寺について。
ローカルな話だが興味のある方はどうぞ。