2021年6月9日『儺の國の星拾遺』,Alkes,二十八宿

コップ座Alkesは、二十八宿では「翼」を構成する星となる。

春の星座と二十八宿はこんな風に重なり合う。

コップ座と翼宿の重なりを拡大。

「翼」の名の通り、鳥が翼を広げているようにも見える。
これは(こふのとり) が羽を広げた形だそうだ。

大陸の星宿名は翼である。この星が南の空に見える頃は晩春で、鶴や鴨が翼を広げて霞の中を北に飛びさる頃である。
(中略)
翼とは(こふのとり)が羽を広げた形であるが、漢方の言葉では、女人が腰をひらき子を産む姿の意に流用されていた。

(『儺の國の星拾遺』p.49)

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余談になるが、翼宿の和名を「襷星(たすきぼし)」と言う。
Alkesの別名「田付星(たつけぼし)」と発音が似ている。

星の和名を収集された野尻抱影氏によると、「たすきぼし」は「(たす)く」から来ているということだが、案外「たつけぼし」が先にあったのかもしれないと思う。

というのも、二十八宿の和名は古い辞書には出て来ず、よく引用されるのが江戸時代の辞書『和爾雅』だからだ。
これは筑前福岡藩の学者貝原篤信(益軒)・好古親子によるもので、執筆の契機についてこんな話があるのだ。(拡大推奨)

これによると、太宰府の古暦の写本が保存されていた旧家に滞在した折、主人から「何か國中歴訪の折には星の話も誌さるべき」と進言されたことに〝いたく〟心を動かされたことが契機とある。
しかも〝和漢の星名索引〟なる『続石位資正』の執筆を志したと書かれている。

貝原篤信(益軒)のその志の源になったのは、太宰府の古暦の写本ではなかったか。
それは那珂川の庄屋にも保管されていたもので、『儺の國の星』『儺の國の星拾遺』の元となっている。

よって順序からすると「田付星」が先で「襷星」が後だと思うが、他にもいろいろな資料を見たはずなので音が似ているのは偶然だろう。

次ページは貝原篤信に影響を与えた筑前山口村平等寺について。
ローカルな話だが興味のある方はどうぞ。

2018年6月5日『儺の國の星拾遺』,Alkes,田付星

6月5、6日頃は二十四節気の芒種にあたる。

稲や麦など(のぎ)のある作物を播種する時節だ。

芒種は太陽の運行に基づいたものだが、星の運行もまた農事の目安とされていた。

その一つがコップ座のAlkes。
別名を「田付(たつけ)星」と言うそうだ。

この星が夜空に見える春先から晩秋まで、人々が田漬けになる事から来た名前のようだ。(『儺の國の星拾遺』p.49)

コップ座はワインを入れる杯に由来しており、優勝カップ・トロフィーといった感じだ。日本人にはなじみがなさそうに思えるが、筑紫では早くからこの形が認識されていたらしい。

背振山頂から見た2021年5月11日20時頃の星図(視野180°)

Alkesには他に「水引星(みづひきぼし)」「有年星(うねのほし)」「稲箋星(いなつきぼし)」といった農作業に関する別名があり、「稲箋星(いなつきぼし)」の名がコップ座の形に関係している。

時あたかも田を割って水を入れる季節でもあるところから 水引星みづひきぼし、或は有年星(うねのほし)などとも呼ばれる。
(『儺の國の星拾遺』p.49)

百姓は籾種を ざるに盛って井戸の中に吊り下げ、寒の水に漬る。水温十五度が発芽を早めるからである。稲箋星(いなつきのほし)の名がこれで、いずれも杯、或は盃の形に思いをる名であったかもしれない。
(『儺の國の星拾遺』p.52)

乾いた田に水路の畝を立てたり籾種を盛る笊の形に見立てたり、この星は水田の準備を始める合図にもなっているようだ。

他にも季節に関する様々な別名があるので次回以降紹介していきたい。